本報告は、通信総合研究所と東京大学社会情報研究所の共同研究グループが2003年11月~12月に全国規模で実施したインターネット利用動向調査の結果をとりまとめたものである。2000年に着手した5年計画の調査研究の第4年次の報告である。
本研究はインターネットの普及とともに進行するわが国民の情報行動の変化を多角的に把握し、新しいネットワーク技術が社会に受容されていく過程を学術的に明らかとすることをねらいとしている。新しいメディアであり、新しい情報通信インフラとなりつつあるインターネットの普及が人々の情報行動、生活様式、人間関係、価値観などに変化をもたらし、社会、経済、政治、文化システム全体に大きな影響を及ぼしつつあることはもはや疑うものがない。しかしながら2000年にわれわれが調査研究を開始した段階では、インターネットの普及とそれに伴う人々の情報行動の変化に関して、全国レベルでの精度の高い学術的調査研究は行われていなかった。しかもインターネット普及率が劇的な伸びを示しており、これはすぐ行わなければ2度と実施できない研究であると考えられた。これがわれわれのグループを本研究に駆り立てた第1の理由であった。
一方、このような変化はグローバルに進行しており、インターネット先進国、途上国ともに見られるダイナミックな動きである。そこには国際的に共通なうねりとともに、地域性、国民性の違いも見られるはずである。例えばわが国では携帯利用が非常に多いことなど、利用形態の違いは社会に与える影響も異なるであろう。折から、米国のUCLAチームにより創始され、シンガポール、中国、台湾、韓国、マカオ、チリ、英国、スウェーデン、イタリア、ドイツ、ハンガリーなど20か国以上の研究チームが参加予定の「ワールド・インターネット・プロジェクト」(World Internet Project, http://www.worldinternetproject.net/ 参照)が活動を開始したところであった。ここでは各国が独自に進めているインターネット利用調査チームの国際交流を行い、グローバルにインターネットの長期的な普及過程を追跡するとともに、インターネットの普及が家庭生活および社会システムのさまざまな領域に与える中長期的影響や情報通信技術の発展との相関関係を探ろうとしている。われわれのグループもこれに参加し、国際的に共通な尺度をもってわが国の実態を把握しつつ、その調査結果を国際的に公開していくべきであると考えたことが本活動を促す第2の理由であった。
この間、ITバブルの崩壊とも呼ばれる急激な国際的な経済全体の減速が生じ、最近ようやく回復を期待させる状態がある。しかしインターネット利用に関しては例外と言わねばならない。インターネットサービス事業者同士の相互接続点(商用IX)におけるトラフィックの伸びは経済情勢とは無関係に右肩上がりにあがり続けているのが現状である。(例えば http://www.jpix.co.jp/jp/techncal/traffic.html等参照)
国民各個人・各家庭のインターネット利用が急増し、アクセス線のブロードバンド化も急速に進んでいる。第6章を参照頂きたいが、携帯電話端末を利用したインターネット接続サービス加入数は2003年11月末で約6,720万加入、ブロードバンド利用のインターネットアクセスが1,096万加入に達しており、しかも利用料金は世界最低レベルといわれる。政府が2001年3月に出したe-Japan重点計画に掲げられていた「インターネット網の整備を促進することにより、必要とするすべての国民がこれを低廉な料金で利用できるようにする。(少なくとも3000万世帯が高速インターネットアクセス網に、また1000万世帯が超高速インターネットアクセス網に常時接続可能な環境を整備
することを目指す。)」とした基盤整備目標の達成はほぼ達成された。これからはこうしたインターネット基盤を生かしてどのような社会を形成していくかが問われる。
このようにインターネットを中心に情報通信サービスの利用がダイナミックな変化を示している中で、人々の利用実態はどのような変化を見せているのであろうか。インターネットは新しい魅力を秘めたメディアである。ただしその効用の享受には新しい技術・機器の受容というハードルがある。パソコンは依然として誰もが利用する機
器としては不完全であってディジタルデバイドの大きな要因である。われわれは、インターネット普及数の伸びを単に喜ぶのではなく、その内容を詳細に検討すべきである。そのためにも注意深い調査を行い、分析を通して課題を認識していくことが必要である。
今回の調査では、初めて日記式調査を並行して実施した。第3章を参照頂きたいが、睡眠時間を削ってインターネットを利用していると俗に自戒を込めて言われている利用行動の実態をより詳細に計測・分析する試みとして注目頂きたい。また、本年7月には上述のワールド・インターネット・プロジェクトの東京総会が開催される。昨年までの各国データの国際比較に関しては13章にまとめた。本年は最新データに基づく議論がなされると期待される。
今後も定期的な調査を継続し、わが国のインターネット利用がどのようにダイナミックな変化を遂げるかを明らかにしていきたいと念願している。そして、われわれの調査データが、そのような目的で内外識者に広く活用されることを期待したい。
2004年2月
独立行政法人 通信総合研究所
情報通信部門 研究主管
久保田文人
全世界的にインターネットの利用はここ数年で劇的に増加しつつある。わが国においても全国的な普及に伴い、新たに多彩な応用が開発される一方、さまざまな社会問題も生じてきているところであり、今後のインターネットの健全な発展を図ることが国民的課題である。
次世代のインターネット技術に関する研究開発を進めるためには、中長期的な利用者の需要動向を把握するとともに、新規のネットワーク技術が社会にどのように受容されていくのかに関してのモデルを持つことが、研究開発を推進するうえで極めて重要である。このため、全国規模でインターネット利用者の利用状況、利用頻度、利用者層などに関するインターネット利用状況を調査し、分析することにより、インターネット利用者の動向を把握し、今後のインターネットの、調和ある技術開発の方向を明らかとすることを目的とする。
なお、本調査は5か年間継続して実施する計画であり、今回が4回目となる。
意識調査
- 日常生活でのメディア利用
- 情報機器の利用
- 携帯電話・PHSの利用
- 携帯電話によりメールの利用
- インターネット利用
- 自宅でのインターネット利用
- 自宅以外でのインターネット利用
- ホームページや掲示板の利用
- 情報に対する不安感・信頼度
- 生活全般
日記式調査
- 日常生活の場・移動時間
- メディア利用
- 家族・友人・仕事上の人との接触
- 携帯電話の利用
- パソコンの利用
- メール・受・発信数、携帯電話撮影写真枚数
- 自由時間
- 行動の主な相手
- 母集団 全国12歳以上の者
- 標本数 2,200人
- 抽出方法 層化二段無作為抽出法
平成15年11月17日〜12月17日
調査員による訪問留め置き式回収法。
社団法人 新情報センター
有効回収数(率) 1,520人(69.1%)
調査不能数(率) 680人(30.9%)